チームが機能し、活性化する!
“現場コミュニケーション”の極意

複数の協力会社や職人などと協働で仕事を進める建設現場では、日々のコミュニケーションが大切だ。
しかしそれがうまくいかず、業務に支障をきたすこともある。


現場でのコミュニケーションでは、どんなことに留意すればよいのか。
今回はその極意を探っていく。

“現場コミュニケーション”の極意

チームが機能し、活性化する!

人が入れ替わる“春”こそ丁寧な意思疎通を

春になると、新人の入社や人事異動などで社内体制が刷新される会社も多いだろう。昇進などで初めて部下を持つ人、上司が変わったという人もいるはずだ。外部の協力会社や発注者もその事情は同じ。やり取りしていた担当者が変わったり、協働する仲間が変わることもある。これはどの業界にもいえることだろう。

建設業においては、現場での作業体制が変更になることもある。しかし現場の管理者の中には、部下や協力会社、新人などとのコミュニケーションがうまくいかず、悩んでいる人もいる。

小さなコミュニケーションエラーが思わぬミスや、取り返しのつかない事故に発展してしまう恐れもある。安全かつ効率的に作業を進めるためにも、お互いのコミュニケーションは円滑にしたいところだ。

部品の発送がなされず工期に間に合わない

そもそもコミュニケーションエラーはなぜ起こるのか。建設コンサルタントの中村秀樹氏は、工期の迫った工場増設工事の現場で実際にあった出来事を紹介してくれた。
「もうすぐ工事完了という段階になって、関連部品が不足していることに現場管理者が気づき、会社に電話して翌日夕方までに届けてもらうよう依頼しました」

その部品がなければ工期に間に合わないため、緊急度の高い依頼だったのだ。ところが翌日の夕方になっても部品が現場に届かない。現場管理者が会社に問い合わせてみると、部品の発送手続きはまったくなされていなかったという。
「会社で電話を受けた社員は依頼内容をメモし、それを他の社員に渡して『部品課に伝えてください』と頼んだのです。頼まれた社員は部品課に出向きましたが、担当者が不在だったため、部品課の受付デスクの箱の中にそのメモを入れただけで立ち去ってしまったのでした」

そのメモは、翌日夕方になっても誰の目にも触れることなく、部品課の受付箱の中に入れられたままだったという。結局、その工事は工期に間に合うことはなかった。これは明らかなコミュニケーションエラーによるものだ。

情報は伝わらなければ意味がない

ダブルチェックの促進で伝達のエラーを防ぐ

中村氏によると、このエラーは「依頼内容を“伝えた”ではなく“伝わった”状態にしていなかった」ことに起因するという。「メモを部品課に届けた社員は“伝えた”つもりになっていただけです。しかし相手に情報が届いていなければ伝えたことにはなりません」

そしてもう一点、依頼の重要性(緊急性)が、メモを持参した社員には認識されていなかったことも挙げられる。「重要性が共有されていれば、直接担当者に手渡して『至急お願いします』などと口頭で念押しすることもできたでしょう。電話を受けた人も緊急性がわかっていたならば、翌朝部品課に行って確認することで防げたエラーです」

このようなミスを防ぐためには、「仕組みを変えることも有効」と中村氏。メモなどの書類には「大至急」などと朱字で書かれた付箋を貼ったり、郵便の速達のように赤色のマーカーを塗る、必ず読んでもらいたい箇所をマーカーで塗りつぶすなどの方法がある。誰でも重要度を認識できるようにするのだ。

またダブルチェックを機能させることも大切だろう。
「“伝えた”ではなく“伝わった”を徹底することです。重要度、緊急度の高いことについては、相手に伝わったことを後で必ず確認するようにします」

相手への思いやり、ねぎらいを忘れない

「クッション言葉」で対話の流れが円滑になる

メールやFAXで連絡をすることもあるが、これが送りっぱなしになることも少なくない。相手が「メール、確認しました」と返信してくれれば「ちゃんと伝わったな」と安心できるが、すべての人が必ず返信してくれるとは限らないだろう。また、電話で確認することもあるだろうが、その場合にはコツがある。
「いきなり『メール、読んでいただいていますか?』と言うと『ちゃんと読んでいるのにそんなことでわざわざ電話してきたのか』と気を悪くする人がいるかもしれません。最初に別の話題を切り出して、その後に『そういえば先日お送りしたメールですが、お打ち合わせの日程が変わりまして……』などと付け加えるように言うのがよいでしょう」

本題の前にワンクッション入れるのだ。このようなクッション言葉は「相手の感情を抑えたり、こちらの主旨を理解してもらうための潤滑油になる」と中村氏。これに関連して、次のような事例があるという。
「作業の進捗が遅れ気味の現場で、発注者からの急な変更要請が発生しました。変更自体はよくあることですが、監督がいきなり『発注者からの要請で、この図面の側溝敷設そっこうふせつのカーブを変更することにした』と作業チームの職長に伝えてしまったのです。あまりに突然で一方的な言い方だったために『何を今さら変更するんだ! もっと早く伝えてくれ!』と現場の作業員たちが不機嫌になってしまったのです」

その後は作業が雑になり、手直しの発生もあって作業はさらに遅れてしまったという。
「この場合は『発注者から言われたから』ではなく『ここまで一生懸命やってくれて本当に申し訳ないんだけど』と付け加えることで結果はかなり違っていたでしょう」

また、クッション言葉は部下などに指示を出すときにも使うようにするとよい。
「作業の邪魔になるので車両を移動させたいときは『車、移動させておいて』と言うのではなく、その前に『作業しているところ悪いんだけど』と付け加えることで、相手の受け止め方はまったく変わってきます」

クッション言葉がないと、一方的に命令されたと受け取る人もいる。「作業をしているのに、自分は暇そうに見えるのか」などと思わせてしまってもいけない。言い方によっては「パワハラ」と受け取られてしまうこともある。

前出の現場での事例もそうだが、大切なことは「相手への思いやり」だと中村氏は話す。
「相手の立場やその人の仕事への思いやりの気持ちがあれば、クッション言葉は自然と出てくるようになります。ねぎらいの気持ちを持って話すように心がけることです」

手遅れになる前の経過報告も大切

報・連・相は経過も含めて適宜行うようにする

仕事の場では「報・連・相」(報告・連絡・相談)が必須だ。冒頭の事例でも、部品課にメモを届けた社員が「担当者が不在だったのでメモを置いてきました」と報告していたら、ミスは起こらなかったかもしれない。また中村氏は「経過報告も大切」と話す。
「前出の側溝敷設工事のケースでは、監督が発注者としっかりコミュニケーションを取っていれば予測できたことでした。その上で変更の可能性を事前に伝えておけば、作業チームも心の準備ができたかもしれません」

報・連・相はすべてが完了したり、何かが確定してから行うものだと思っている人もいるが、そうではない。
「なぜもっと早く伝えてくれなかったんだ」というシーンはしばしば見られる。例えば工事が予定通り進まなくなる可能性が見えてきたら、すぐに現場に相談して対策を考える必要があるだろう。手遅れになってからでは遅いのだ。

文字だけでは真意が伝わらないこともある

LINEやチャットの連絡は誤解や行き違いに注意

最近はコミュニケーションに、LINEやチャットなどのデジタルツールを使う現場も増えている。現場の状況などを写真や動画で撮影して、関係者間で共有できるのは便利だ。しかし直接話す場合と違い、文字だけのコミュニケーションになることもあり、注意が必要だと中村氏は言う。そしてこんな事例を教えてくれた。
「ある現場で配筋にミスがあることがわかりました。現場の担当者はLINEで会社の上司に『配筋にミスがあり、手直し発生。急いでやり直しています』と入力して送信したのです。それを受け取った上司は『午後のコンクリート打設に間に合わないじゃないか!』と激怒し、現場が大いに慌てたということがあったのです」

LINEなどのツールでは、文章は短く簡潔になることが多い。そのため“言葉足らず”になることもあり、人によって受け止め方が変わることもある。実際は少々の手直しで十分で、コンクリート打設工事に影響はなかったが、それを書き添えなかったためにこのようなことになったのだった。
「現場を見ていない上司が、LINEの伝達内容に振り回されてしまったことも一因です。午後の工事に影響がないことを話していれば冷静でいられたでしょう」

あいさつ一つで現場の「空気」がよくなることも

ちょっとした声かけで作業はやりやすくなる

コミュニケーションの円滑化には「あいさつや声かけは必須」と中村氏。現場で積極的に実践すべきだと話す。
「こちらから『おはようございます』とあいさつしても、相手が何も返してくれないと『感じの悪い人だな』『機嫌が悪いのかな』と思ってしまいます。するとお互いにギクシャクしてしまうでしょう。これではコミュニケーションが円滑になるはずがありません」

話しかけにくい、話したくないなどと思ってしまうと、大切な連絡事項が伝わらないこともある。特に複数の業者が入る現場では気を付けたいところだ。

また現場内だけではなく、近隣住民とのコミュニケーションも大切。
「比較的交通量の多い道路に面した解体工事現場でのことです。作業前に作業員5~6名が道路に向かって並んで、行き交う人々に『おはようございます。これより解体作業を始めます。ご迷惑をおかけしますが安全に作業いたします』とあいさつをしたのです。するとその現場は、なんとクレームゼロを記録しました」

あいさつをされて嫌な気分になる人はいないだろう。こんな作業員たちの姿を見て、近隣の人たちも安心したに違いない。
「作業員同士があいさつをしたり、作業前にミーティングをしたり、ラジオ体操をする様子は近隣の人たちも見ています。『ここはちゃんとした現場だ』と思ってもらえることが信頼感につながるのでしょう」

雑談が作業員同士の心の距離を近づける

気さくに話せる環境が円滑化を促進する

もう一つ、コミュニケーションの円滑化に欠かせないことがある。“雑談”だ。作業中の雑談は集中力を欠いてしまうこともあり、事故につながる恐れがあるので控えたいが、休憩中や作業の前後で雑談ができる環境があるのはいいことだ。
「休憩時間などの雑談で、出身地や趣味の話ができると、お互いの心の距離が縮まりやすくなります。仕事上のアドバイスや相談もできます。雑談もできないような現場はやはりコミュニケーションもうまくいきません」

最近は個人情報への配慮から、プライベートな会話は避けようとする人がいる。しかし監督などの現場の責任者がそれをやってしまうと、雑談もできない雰囲気になってしまう。

雑談を通じて「仕事中は怖い顔をしていて話しかけにくいけど、優しい人だな」などといったことがわかれば、コミュニケーションが取りやすくなる。会社によっては、現場での雑談促進に取り組んでいるところもある。
「これは、プロ野球好きの作業員が多い現場での事例です。そこでは、休憩スペースにいろんな野球チームのポスターを貼っているのです。するとそのチームのファンが自然とそこに集まってきて、会話をするようになりました。他の業者の人とも気さくに話ができるようになったのです」

円滑化・活性化は責任者の統括力次第

仕事にからめたゲームで会話のきっかけづくりを

作業員同士のコミュニケーションの円滑化・活性化のために、仕事から離れたところでバーベキューパーティーや飲み会を行うところもある。また現場によっては、簡単なゲームをチームビルディングとして取り入れているところもあるという。
「2~3人ずつのチームをつくり、安全や効率化のためのゲームをやるのです。例えば『この資材を安全かつ効率的に目的の場所まで運ぶにはどうすればよいか』といったことを各チームに考えさせます。優勝チームのメンバーには賞品として500円分のクオカードが用意されていたりすることもありますね」

普段会話をすることのない作業員同士がコミュニケーションを取るきっかけになる。作業が早く終わったときには、みんなでコーヒーなどを飲みながら雑談の時間を持つようにしている現場もあるようだ。

いずれにしても、現場の責任者の統括力によるところが大きい。現場でのコミュニケーションがうまくいくにはどうすればいいのか、工夫することも必要なのだ。

日常の何気ないコミュニケーションも大切

相互理解と尊重が風土醸成の土台に

報・連・相が遅れてしまう原因の一つに、「言いにくい」ということがある。「怒られるかもしれない」などと思ってしまうと、つい報告や相談を怠ってしまうこともあるだろう。迅速に対応するためにも、パワハラなどに注意しながら報・連・相がスムーズに行えるように配慮したい。

中村氏によると、危険な作業が多いある現場で、監督が「おい! 危ないぞ!」と大きな声で注意喚起しただけで「怒鳴られた」と言って現場に来なくなった若い作業員がいたそうだ。これも「騒音が大きいので大声を出すこともあるからね」と事前に伝えておくだけでもよかったはず。ベテランの作業員たちにとっては「言わなくてもわかること」でも、新人などにはわからないことも多い。これも相手への思いやりがあれば、事前に伝えてあげることができたという事例だろう。

人間なのでお互いに“合う・合わない”はある。「この人、なんだか苦手だな」と思うこともあるかもしれない。しかし相手の性格的な部分がある程度わかっていれば「この人にはこういう言い方をすればいいんだな」と、自然にわかってくることもある。そのためには、仕事に直接関係のないことでも、お互いにコミュニケーションを取って相手のことを知る機会を日常的につくっておくことは重要だといえる。そしてお互いが相手の立場や仕事を尊重して理解し合い、話を聞こうと努めることだ。それが円滑なコミュニケーションのベースとなるのだ。

ー C O L U M N ー
「安全ゲーム」で危険防止と世代間交流を促進


高齢の作業員が多い現場では「安全」をテーマにした簡単なゲームを実施するところもあるという。
高齢になると身体機能が低下したり、視野範囲が狭くなる。人間は何歳になっても「若いときのように身体が動くはず」と思って無理をしてしまいがちだ。例えば片足をどれだけ上げられるか(段差でのつまずき防止)、椅子に座った状態で左右の後ろがどこまで見えるか(視野狭窄しやきょうさくによる危険防止)をゲーム感覚でやってみるのである。

自分の機能低下を認識できていれば、作業中の危険も回避しやすい。このゲームがきっかけで会話がはずむこともあるようだ。若手も参加することで「●●さん、大変そうだから自分が手伝おう」などと、現場内での協力関係が自然にできたり、世代間交流が生まれるきっかけにもなるかもしれない。


監修=中村秀樹 文=松本壮平 イラスト=丸山哲弘

お話を伺った方

中村秀樹(なかむら・ひでき)
ワンダーベル合同会社・建設コンサルティング&教育統括。名古屋工業大学土木工学科卒業。大手ゼネコンにて高速道路や新幹線の橋梁工事、シンガポール地下鉄工事や北極海石油開発プロジェクトなどに携わる。著書に『建設業・現場代理人実践読本―求められる現場代理人像』(日本コンサルタントグループ)など。